フォトエッセイ

直径160mmの傘の下、私と大切な人と。 【─Shining Moments:08 ─】

それは確か、お盆前後のある日。
仕事がものすごく忙しかったからか、何か良いことがあったからか、はたまた腹が立つことがあったからか、今となっては思い出せないが、私は某サイトのお買い物かごにずっと入れっぱなしにしていた照明を、あんなにも長いあいだ悩んでいた照明を、いとも簡単に ぽちりと買った。

私はとりあえず買ったことに満足して、「9月末入荷」だというその照明への興味を頭の隅に追いやり、1ヶ月ほど忘れていたのだが、そんな照明が、このたびようやく届いた。

ルイスポールセンの、「パンテラ ポータブル」。
ヴァーナー・パントンがデザインした「パンテラ テーブルライト」の最小機種にあたり、充電式モデルとして電源に依存せずどこでも使うことができるポータブルライトだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

この照明の購入を悩んでいた理由は、実は デザインや価格ではない。デザインが良いのはわかっていたし、価格も安くはないけれど、名作照明を買うと思えばむしろ手を出しやすいと感じていた。

だから私の場合は、実用性…つまり、果たして使い道があるか?我が家で役に立つか?というところで、悩んでいたのだ。

というのも、もともと照明が好きで、「パンテラ ポータブル」に前後していくつかの照明を買っていた私。リビング用に、同じくルイスポールセンの「PH5 mini」。そしてFLOSの「GLO-BALL BASIC 1」。そのほかFLOSの「BRERA」は以前から持っていて、寝室に使用している。

それほど広いわけではなく、ただでさえ物が多い空間。これ以上間接照明がいるだろうか?と懸念していたわけである。

だけど届いてみて、そんな心配は無用だったことがわかった。
このポータブルライトは、他の照明と少しだけ用途が異なり、私と大切な人の距離を埋めてくれる灯りなのだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

たとえば友人たち。
ここ最近 コロナが少しだけ落ち着いたこともあり、仲の良い友人に遊びに来てもらっては お庭でお茶をしたりするのだけど、これまではただテーブルを囲んでおしゃべりしていただけの空間に、この「パンテラ ポータブル」を置いてみる。互いの距離が光で埋められるからか、なんだか話しやすく、いつもより話に花が咲く。

あるいは夫。
秋風を感じながら たまにはお酒でも飲もうと、庭に出るとき、このポータブルライトを点けると、日常の景色がまるでレストランのテラス席のようになり、ちょっとしたデート気分に。無言の時間も、柔らかい明るさで満たしてくれる。

もしくは猫。
この まあるいかたちが好きなのか、いつもは私には興味がないくせに、テーブルに置いているとサッと寄って来て、近くにゴロンと寝転ぶ。とても可愛い。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

ぼうっと広がる、柔らかな光。
私と、大切な人は、直径160mmの小さな丸いシェードを中心に、いつもよりほんの少しだけ、顔を寄せ合ったりする。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

持ち運びができる名作照明だから、叶う空間。
デザインって、もしかしたらこういう「使い手の姿」も含めてのデザインなのかしらと、素人なりに思ったりした。

「パンテラ ポータブル」は、2020年発表のまだ新しいプロダクトである。その点ヴァーナー・パントンの完全なオリジナルとは言えないのかもしれないが、“人々がファンタジーとイマジネイションを”というその精神は、ミニチュアになっても健在だ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

こんな状況下だからこそ、大切な人と、適切な距離で、良い時間を過ごしたい。
そんな願いのために、一役買ってくれる照明。

私は今日も大切な人と、直径160mmの傘の下で、温かい空間を共有する。