フォトエッセイ

アンティーク家具と、これから育つ無垢の木と。 【─Shining Moments:30 ─】

先月の話の続きになるが、我が家は現在模様替えをしている。とことんやろうと夫婦二人で決めたので、お金も時間も惜しまない。今回のエッセイでは、この模様替えのメインであるイギリスアンティークの食器棚と、新しいダイニングテーブルを購入した経緯について、我々夫婦の日常をとおして記録したい。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

ふたつ一緒って、いい。2年ぶりの模様替えと矢合直彦作品。【─Shining Moments:29 ─】

イギリスアンティークの食器棚を迎えて

愛知県小牧市に、好きでよく覗く古家具屋がある。
「次世代のリサイクルショップ」をキャッチコピーとするBANUL(バナル)という店で、いつ行っても面白い家具や雑貨がたくさん。私はこの店をほとんど宝箱だと思っているので、店へ向かう時はいつも、きっと何か素敵なものに出会えるという確信とワクワクに満ちた気持ちでいる。デザイナーズもノーブランドも、アンティークも現行品も、国内外問わず様々なものが集まるのはBANULならではの特徴なんじゃないだろうか。
我が家の家具にも、いくつかここで購入したものがある。アメリカビンテージの業務用棚やブックシェルフ、日本の古い文机や、小引き出し。FLOSのスタンドライト「BRERA」を見つけたこともあった!しかも格安で。こういう出会いがあるから、BANUL通いはやめられないのだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

そういうわけで、その日も根拠のない確信に胸を躍らせ店へ行き、やはり出会ってしまったのだった。
イギリスアンティークの棚。
ガラス張りのその棚はブックシェルフとして作られたもののようだが、私と彼は一目見て、この棚を食器棚として我が家に迎えたいと思った。
アンティークって言葉は罪だ。耳の奥の深いところにしんと響いて、忘れられなくなる。しかもイギリスですって。どのような英国紳士淑女が、どのような本を並べて使っていたのだろう?

安い買い物ではなったけれど、我々はほとんど即決だった。好みと金銭感覚が一致しているというのは私にとってパートナー選びの最も大切なところだが、こういう時に本当に夫を選んで良かったと思う。……しかし夫の模様替えへの熱は、思いのほか加速していた。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

一枚板のダイニングテーブル

食器棚購入でノリにノった夫が「一枚板のテーブルってずっと憧れだったんだよね〜」と購入ボタンを押すのを、そのワンクリックを、止める隙はなかった。少し驚いて言葉を探していると「去年照明たくさん買ってくれたから、これは僕が買うよ」と夫。「ずっと憧れだったからね」と私の目をまっすぐ見つめるその無垢な瞳に、私は反論することなんてできなかった。
とはいえお金は夫が出すそうだし、一枚板のダイニングテーブルは確かに良いだろうし、反対すべきところなんてそもそもない。私は内心「ラッキー♪」な気持ちで、一枚板の到着を待ったのだった。

大きな一枚板が届いたのは、それから数日後。
私を驚かせたのは、その大きさと重さだ。しかも画家である夫のモノづくり気質が招いたことか、テーブルとして完成したものが届いたのではなく、本当に一枚板。ヤスリがけもワックスもこれからの一枚板が、ズドンと届いたのだった。
私は「ラッキー♪」を一度頭の隅にやり、これからヤスリがけをするという夫を本気で心配した。この酷暑の中大丈夫だろうか?
……不安的中。彼はその日、一日中ヤスリがけをすることになる。私はたしか日中家を空けていたのだけど、朝家を出る時と、夕方帰った時、夫がほとんど同じ場所で同じ作業をしていたので、一瞬時が止まったのかと錯覚してしまった。夫は私が帰ると嬉しそうに「ほら、この辺ツルツルになったでしょ!?」と言った。私は一枚板の変身を確かめるのもそこそこに、夫を家に入れ、冷たい飲み物を出した。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

盛永省治のファットプレート

一枚板が届き、ヤスリがけをしたその日、冷たい飲み物でクールダウンしつつ夫が「食器棚も届いたことだし新しい皿でも見に行こう」と提案してくれた。我が家はメインとサラダをワンプレートスタイル。大体イッタラのティーマプレート23cmか、ティーマボウル21cmを使用しているのだが、白色のティーマは確かに少し見た目が淡白だし、もっと別の選択肢があってもいいかもしれない。

訪れたのは、以前ここでもご紹介したぐい呑みを購入したお店。センスの良い生活雑貨や服を置いているお店だ。ここでぐい呑みと同じ作家さん、キムホノさんのうつわがないだろうかと思ったのだが、その日ピンとくるものはなく、またの機会にしようかと考えていた時に見つけたのが盛永省治さんの作品だった。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

鹿児島県日置市を拠点とする盛永さんは、ウッドターニングとう手法を用いてプロダクトを制作する木工作家。ウッドターニングとは木工旋盤という機械を用いて木材を回転させながら削り出す手法のことで、この手法により大胆で繊細な、生命力を感じる美しい木工作品が生み出されている。

私たちが手に取ったのは、そんな盛永省治さんが制作したファットプレート。
メープルの木を削り出した厚みのあるプレートで、緩やかな優しい窪みが特徴的だ。夫はその日のヤスリがけを引きずり「こんなに木をツルツルにできるなんてすごい……」と表面を撫でつけてはその技術に感動していたが、私は無垢の木を食卓に取り入れるという概念にワクワクしていた。

この木はきっと、時間と共に飴色になっていくのだ。同じくこれから使い込まれる一枚板のダイニングテーブルと一緒に。それってすごく素敵だねと、私たちは模様替えの(とりあえずの)締めくくりとしてこのファットプレートを2枚購入した。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

時間を経た木と、これからの木

アンティークの棚に、ぽってりしたプレートが重ねられている。アンティークならではの風合いのある木目と、まだ新しいメープルの対比が面白い。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

夕食時には、例の一枚板テーブルの上で、プレートに載せた食事を楽しむ。我が家の料理は夫担当だが、このプレートに載せると思うと料理も一層楽しくなるんじゃないだろうか。夫の料理もいつもより美味しそうに見えるし、食べる担当の私もいつもより良い反応ができているように思う。おいしい!きれい!満面の笑み。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

おいしいねって食べ終わったあとは、プレートを手洗いして、また食器棚へ。いつもの小さなルーティンを、今までより少しだけ丁寧に。そういうささやかな変化が、私たちの日常をぐっと彩り豊かにしてくれるようだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

そういうわけで、私たちの模様替えは無事に済んだ。実は8月に入ってから夫婦揃って体調を崩して一週間ほど寝込んでいたのだが、部屋が美しいと、なんだかそれだけで気持ちが安らぐ。薬を飲むために食器棚からグラスを取るときも、静かに励まされているような気がしたし、ダイニングテーブルに手を置くと、夫がヤスリがけしたひんやりとした木が優しく包んでくれているようだった。

もう何年も住んでいるのに、これからこの部屋で改めて暮らしていくと思うと、すごく嬉しい気持ちになる。模様替えっていいな、夫婦っていいな。そんなことを思いながら元気になった私たちは今日もまた、この新しいプレートで、いつもの食事をするのだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ