コラム

映画「バービー(Barbie)」衣装:歴史と多様性の象徴としてのピンク

2023年8月11日に公開された映画「バービー(Barbie)」。

ヒールの形に沿うよう上がった踵。
見えないシャワーの水に、壁のないお家。

様々なピンクを用いて“ドールらしさ”を追求する一方、現実(リアル)を映し出した物語として世界中で議論を巻き起こしています。

今回は映画「バービー(Barbie)」の衣装について。
バービーが提示してきた複雑な価値観とドールらしいファッションのポイントとは?

映画「バービー(Barbie)」のあらすじ。女の子の可能性と理想的な体型

 

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どんな自分にもなれる、今日も明日も明後日も完璧で〈夢〉のような毎日が続く“ドールの世界”〈バービーランド〉(公式パンフレットより引用)。

そんな完璧な世界で過ごすバービー(マーゴット・ロビー)の体にある日異変が。

その原因を探るべく、ケン(ライアン・ゴズリング)とともに完璧なバービーランドから人間の世界へ。

ただ、カリフォルニアランドはバービーランドとはかなり様子が異なり、バービーとケンの「当たり前」とは違う価値観にショックと受けたりハッピーになったり…。

そうしてリアルワールドで出会う世界の“秘密”はバービーとケンたちのみならず、スクリーンの前にいるリアルワールドの住人である私たちにも「問い」を投げかけます。

女の子の可能性を広げた/狭めたバービー

 

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なりたい自分になれる(You Can Be Anything)」をコンセプトに掲げ、様々な職種に就き「母親になる」以外にも女性には可能性があることを提示してきたバービー。

1959年の誕生から現在まで、バービーが就いた職種は180種以上。

女の子でも大統領や医者、宇宙飛行士にだってなれると、バービーで遊ぶ子どもたちに訴えてきたのです(時には大人にも)。

それまで紙の着せ替えで簡易におしゃれを楽しむか、「母親」になる赤ちゃん人形遊びしか選択肢がなかった女の子のおもちゃ。

男の子に比べて圧倒的に選択肢が限られた中で誕生したバービーは、言葉通り女の子の可能性を広げるものでした。

しかし、同時に「子ども向けのおもちゃにしては性的」という批判もあり、父親だけでなく母親からも受け入れられなかったのです。

可能性を広げる一方、「ありえない女性の理想像」であったバービー。

そんな複雑さを抱えたバービーだからこそ、人間の世界で直面する現実(リアル)に戸惑うのです。

バービーの服と体型。作中のこだわりとは

 

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サーシャ(アリアナ・グリーンブラッド)がバービーに対して「フェミニズムを50年後退させた」と述べるシーンがあります。

バービーの抱える複雑さのひとつに、現実離れしたプロポーションが挙げられます。

長く細い首に、これでもかというほどくびれたウエスト。
ウエストは実際の人間の体型だとなんと20cm!

今でこそ多様性を反映したバービーたちが登場していますが、それはここ10年のこと。

約50年以上、現実にはいないバービーの体型こそが女性の理想であるとの価値観の形成には、バービーも無関係ではありませんでした。

ただ、バービーを生み出したマテル社の主張は少し異なります。

当時、人形用の素材はなく、バービーが着る服は人間と同じ生地を使用していました。
人間サイズの布は、人形が着るには厚みがあり・柄が大きい。

そのため、着用した時に違和感のないよう、重ね着をしても首が埋もれないように首は長く。
着膨れしないようにウエストは細くしていたと主張。

この主張の正当性は一旦置いておいて、「バービー(Barbie)」の衣装もこの点を意識して作ったと監督であるグレタ・カーウィグは述べています。

 

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大きなアクセサリーにボリューミーなスカート、ビビットなカラー使い。

バービーらしい”と思わせるこだわりがちりばめられているのです。

「バービー」ファッションの注目ポイント3選

バービーは誰かのためではなく目的のために服を選んでいるという、隠れたコンセプトがあります。

その日どんなことをするか、どんな気分か。

バービーたちはシーンごとに着替えを行うのでたくさんの衣装が登場しますが、特に注目したいポイントを3つご紹介します。

衣装:バービーの完璧さを彩るシャネル

 

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「バービー(Barbie)」には「シャネル」の衣装が登場します。

ツイードのセットアップに、バービーランドを取り戻そうとケンの元を訪れた時もシャネルのバッグとネックレスを身につけていました。

「マーベラス・ミセス・メイゼル」の記事でも、シャネル提案のリトルブラックドレスに込められたメッセージ性について言及しましたが、バービーにおいては異なります。

ドラマ「マーベラス・ミセス・メイゼル(The Marvelous Mrs. Maisel)」衣装:「古き良きアメリカ」のエンパワメントファッション

バービーは様々な職種に就いていますが、それはバービー自身が選んだものではありません。

マテル社や世間の声から割り当てられた役割であり、シャネルはバービーの完璧さを際立たせるブランドとしての役割を担っています。

他にも数々のブランドが登場する「バービー(Barbie)」。

シャネルが本作のために制作した5つのルックを含め、どのブランドを着用しているか推測する見方も楽しめそうですね。

アクセサリー:「バービー人形らしさ」へのこだわり

 

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バービー(Barbie)」には洋服だけではなく、可愛いイヤリングやネックレスなど、洋服に合わせた素敵なアクセサリーが登場します。

唯一登場しないのがリング。
バービー人形は親指以外がくっついているため、リングが着用できない仕様になっているためなんだとか。

また、アクセサリーの身に着け方も印象的。

貝殻やフラワーモチーフのネックレスやピアスはセットアクセサリーで着用することで、より“ドールらしさ”を印象付けます。

ドール感を演出するのは、それぞれのアイテムのパーツの大きさ。

人間用のアクセサリーであれば、身につけた時のバランスを重視してボリュームを変えそうなところが、セットアクセサリーのパーツは同じ大きさ。

大量生産されるドールアクセサリーならではの仕様が実写でも反映されており、細やかなデザインがより「バービーランド」の世界を作っているのですね。

カラー:「ピンク」と女の子らしさの関係

 

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女の子のイメージカラーとしても定着しているピンクは、「バービー(Barbie)」にもたくさん登場します。

セットには多種多様のピンクが用いられており、衣装もビビットからペールピンクまでたくさんのピンクが画面いっぱいに溢れています。

この「ピンク=女の子の色」の式が生まれたのは第二次世界大戦後。

ファーストレディーであるマミー・アイゼンハワー、ジャクリーン・ケネディが次々に愛用し、女性らしさを象徴するカラーとなったのです。

その前まではブルーこそが女の子の色とされている地域もあったりと、性別によって割り当てられる色が固定されていませんでした。

「女性らしさを象徴するピンク」と距離を置くなどの歴史を経て、現在では「ピンク」の解釈が新しく、より個人的なものへと変化しています。

そのひとつが「自分らしさの象徴としてのピンク」。

バービーランドに住んでいた何も疑わない頃のピンクと、クライマックスでバービーが選んだピンクがきっと違って見えるはず。

POINT

  • 女の子の可能性を広げた/狭めたバービーの複雑さを描いた「バービー(Barbie)」
  • おもちゃ感を追求したセットや衣装は、バービーの歴史を知ることでより色鮮やかに
  • ピンクが女の子らしい色になったのは第二次世界大戦後から

日本でも賛否を巻き起こしているバービー。

女性だけでなく、またバービーが好きな人だけではない、たくさんの人々が必要とする映画であるのは間違いありません。

アメリカでは核を生み出した科学者を描いた映画「オッペンハイマー」との同時期上映のため、「バーベンハイマー」というタグと二つの作品を組み合わせたミーム(meme)が非公式に登場し、物議を醸し出す結果に。

8月1日にメディア向けに、8月8日にはワーナー・ブラザース・ディスカバリーの幹部が日本経済新聞の取材に応じ、謝罪を行いました。

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