コラム

映画「エブエブ(EEAAO)」衣装:マルチバースも哲学も⁈衣装の強烈なインパクト

映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2022年・アメリカ)、通称「エブエブ」。
第95回米国アカデミー賞最多7部門受賞という偉業を達成した作品です。

タイトルの「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」とは“あらゆるものが、あらゆる場所に、一斉に”という意味。

マルチバースとカンフーで世界を救え⁈
空前絶後のアクション・エンターメント…にして、中国系移民の家族愛を描いた本作。
最先端のカオスな映像体験、近年の映画界におけるアジア系/多様性重視の流れ、普遍的でシンプルな親と子の問題から哲学的な命題まで…いろいろな意味で見逃せない映画です。
そしてとにかくダニエルズ(2人監督)の奇想天外なアイディアと予測できない展開、それを実現するキャスト・スタッフのパワーに圧倒されます!
今回は映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の衣装についてお届けします。

「エブエブ」衣装のインパクト!日本の影響も。

日本の雑誌やアニメも参考にした独創的な衣装も楽しい「エブエブ」

「エブエブ」の衣装を担当したのはシャーリー・クラタ

ヘアはアニッサ・サラザール他、メイクはミシェル・チャン他。

高速で切り替わるマルチバースを語る上で、エブリン(ミシェル・ヨー)やジョブ・トゥパキことジョイ(ステファニー・スー)の衣装は大きなポイントに。
さまざまな世界観の大胆な表現が映画の見ごたえにもなっています。

中でも前衛的なジョブ・トゥパキの衣装とヘアメイクは強烈なインパクト(しかも次々変わるので見逃せない)!

 

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シャーリー・クラタは日系アメリカ人。美意識のソースは日本のファッションからも。
原宿のストリートスナップ雑誌「FRUiTS」やアニメなどを参考にしているそう。またヘアアクセサリーもほとんど原宿で購入したものだとか。

※「エブエブ」のヘアメイクについてはこちらの「FRONT-ROW」さんの記事がおすすめ。

低予算、オークション…ユニークな衣装秘話!

クリエイティビティと膨大な点数の迫力を見せつつ、実は低予算、準備期間もわずか1か月半だったという「エブエブ」の衣装。

エブリン達の普段の衣装はLAのチャイナタウンで購入したり、他にもヴィンテージのリメイクなどで凌いだそう。
あまりの「お父さん」ルックにウェイモンド役のキー・ホイ・クァンも笑っていたとのこと。

そして…クランクアップ後は、まさかのオークション!
新進の制作会社であるA24は、チャリティオークションで衣装や小道具を放出するのです!

エブリンやジョブ・トゥパキの代表的な衣装、例えばこの衣装もオークションに!

「ジョブのエルビス風アンサンブルは、目が眩むようなジャンプスーツ、オーバーサイズのベルト、ピンクのウィッグ。」
などなど、普通に説明文もついているので衣装を詳しく知りたい方はA24のオークションページをチェックしてみてくださいね。 https://a24auctions.com/

エブリンの本質はパンク

エブリンの衣装といえば、後半の旧正月の時に着ている赤のニットカーディガンも、シャーリー・クラタによると「LAのチャイナタウンのサイゴン広場で手に入れた」そう。

 

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背中にパンクと入っているこのデザインを、シャーリーは“appropriate”(適切、ふさわしい)と感じたそう。「エブリンはパンクロックだから」。

実は監督がアカデミー賞のために特注したジャケットもこのカーディガンのデザインなのですよね!

限られた予算内で奮闘していたシャーリーが、チャイナタウンのフリーマーケットで埋もれていたこのパンクカーディガンと運命的に出会ったのでしょうか?…何だかそんなシーンを想像してしまいます。

生活に振り回されていたエブリンの中にあった強い精神にもつながるこの衣装。エブリンの象徴でもあり、映画「エブエブ」そのものの“低予算のパンクな奇跡”の象徴でもあるのかもしれませんね。

円環(丸)、第三の目…東洋・アジア的なモチーフの表現

映画全般に感じる、円環(丸)へのこだわり

ドラム式洗濯機の丸い窓、丸い鏡、レシートに書き込まれた〇、そして、ベーグル…。

「エブエブ」の映像は、かなり円環(丸)を意識して作られています。

「万物は流転する」といった円環的な世界観や時間感覚は、東洋的、アジア的な思想や感覚といえるかもしれません。

 

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この哲学的なジョブ・トゥパキの衣装は、シャーリー・クラタがファンだという石岡瑛子さんの衣装の影響もあるとのこと。

ほぼ純白の静謐なモノトーンの世界、エリザベスカラーとパール、そしてベーグル・ヘア…SF的でクラシカルで奇想天外、まさに独創的な衣装。

“全部乗せ”のベーグルの丸い穴は、ニヒリズム(虚無主義)に通じる空虚な穴、ブラックホール。

しかしウェイモンド(キー・ホイ・クァン)が、場をなごませようと貼り付ける目玉のシールもまた「丸」なのです。

ユーモア、ヒューマニティ、“Please,be kind”…虚無的な気持ちになったとき、ひとはどうやって人生や人間関係を取り戻していくのか…ささやかなヒントは、キー・ホイ・クァンの心のこもった演技でより意味深いものに。

そして目は、額に張り付ければ東洋で言われる第三の眼(サードアイ)に。

小花柄のシャツにキルティングベスト、本当にそこらへんの中年女性の服(⁈)なのにかっこいいエブリン(ミシェル・ヨー)!

この美しい映画のビジュアルアートも、曼荼羅のような円環。「エブエブ」の万華鏡のような東洋的な世界観を表現しているように思います。作者は台湾系アメリカ人のジェームズ・ジーン。「エブエブ」の「オールアジア系」感がより高まりますね!

深い意味を考察したくもなる「エブエブ」…ですが、いっぽうで前述のジョブ・トゥパキのベーグル・ヘア、建物で撮影が始まっていたのでラフを試して、ヘアスタイルに余裕があるようにサイズを縮小しなければならなかったのだそうです!
哲学的シーンの裏でそんな面白大変な撮影の日々が。仲の良いキャスト・スタッフの雰囲気といい、何だか独特の愛らしさを感じるのも、映画「エブエブ」の魅力かもしれません。

POINT

  • 祝・アカデミー賞!「エブエブ」はインパクトフルな衣装・ヘアメイクも見逃せない
  • 独創的な衣装はシャーリー・クラタ、日本のファッションからも影響を受けている
  • 東洋的、アジア的なモチーフから深い意味を探ってみるのも興味深い映画

それにしても衣装の話題だけでも書ききれない…膨大な内容を持つ「エブエブ」。

ちなみに筆者が「エブエブ」を観て、受ける感覚が近いな~と思ったのは「(劇場版)クレヨンしんちゃん」!(これは、他の方なども書かれているので同意してくださる方もいるのでは?)
奇想天外でちょっとおバカで、でもハートフルな家族愛にグッと来る感じです。

大人世代の方も、1962年生まれのミシェル・ヨーと1958年生まれのジェイミー・リー・カーティスがあんなにも(⁈)頑張っている姿を見てほしい。「石」のシーンも素晴らしい。というわけで、ヒカリモノガタリ読者の方も、ぜひ劇場でこの異次元のカオスワールドを体感してみてくださいね。

映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」公式サイト

【おまけ:アカデミー賞2023】ミシェル・ヨーの衣装はディオール、ダイヤモンドのジュエリーはロンドンの宝石商ムサイエフ!