フォトエッセイ

それでも自分と向き合うこと。〜リトリートって?〜【─Shining Moments:28 ─】

「大丈夫、大丈夫」と言いながら、自分の胸を、自分の手でポンポンと叩く。ちょっと無理をしているような時、私は自然とそんな行動をしている。大人の毎日は、どうしたってやりきらなきゃいけないことばかりだ。だから自分を励ましつつ、私は頑張る。それでもやっぱり、もうダメかもと思うようなシーンが、一定の周期でやってくる。

私の記事を読んで知ってくださった方から「ルーナさんに来てもらいたい企画がある」とご連絡をいただいたのは、ちょうどそんな時だった。

リトリートコースという名の、会席料理と茶の湯の体験。今の自分にちょうど必要なもののように感じて、私は訪れてみることにした。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

リトリートって?日常から離れてリフレッシュすること

この頃よく聞く「リトリート」という言葉。これってそもそもどういう意味なんだろう?

調べてみると「リトリート」とは「リトリートメント(retreatment)」を語源とする言葉で、隠れ家や避難所、といった本来の意味が転じて、『日常から離れてリフレッシュすること』を意味するそうだ。ここで言う日常とは、仕事や人間関係を指す。だから観光のための旅行とは異なり、人と賑やかに楽しくというよりは、むしろ一人静かに、自分を癒すような時間を過ごすことを目的とする。

「リトリート」という言葉は知っていても、意識して体験したことはなかった私。人生で初めてのリトリート体験が、今回お誘いいただいた〈喜想菴(きそうあん)〉のリトリートコースだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

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〈喜想菴〉のリトリートコース。会席料理と茶の湯体験

〈喜想菴〉は、愛知県稲沢市の日本料理屋。四季折々の美味しいお料理、温かいおもてなしはもちろんのこと、都会から一歩離れたその立地もあって「日々の喧騒を忘れていただく」ことをコンセプトとしている。

リトリートコースもまたそんな想いのもとつくられたコース。会席料理と、茶の湯にふれる時間を、女将のミニマナー講座を受けつつ体験することができるプランだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

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これまでにも会席料理をいただいたことはあるが、それは私にとってどちらかというと窮屈な時間だった。粗相のないようにしなければ、正しいマナーで食べなければ、そんな気持ちが先行して、料理を楽しむことは二の次だったように思う。

けれどもこのリトリートコースでは、合間合間にポイントを教えてもらうことで、料理の味や見た目に集中することができた。例えば、箸の使い方。お懐紙の使い方。一つのお皿の中で、いただく順番。敷居が高いとばかり思っていたが、本来の意味を知るとそれがとても理にかなっていることが分かり、その世界が想像してきたよりも寛容で柔らかいものなのだと知る。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

お料理は「お白湯」「食前酒」「先付け」「煮物椀」「お造り」「お凌ぎ」「八寸」「炊き合わせ」「飯物」「水物 」「和菓子」「薄茶」と進んでいく。

食事の時間が深まっていくにつれ、私は自分がゆったりと呼吸できていることに気がついた。それは思考の余裕につながる。

大将の手作りだとおっしゃっていたこの器すてきだな、今の緑はこのくらいの濃さなんだな、そういう目の前の物事以外への意識から、その器をすてきだと感じる自分自身、緑の鮮やかさにハッとする自分自身へと思考が移ろう。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

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料理を終える頃には、とても気持ちが良かった。その後の茶の湯体験も、すっかり整った自分で臨めるからこそ、ちょっと難しいような所作も素直に楽しむことができる。茶の湯体験を終える頃には、これからお茶を習ってみようかしらと思いさえしていた。日常ですり減っていた、私が本来持っている純粋な好奇心が、きちんと元通りのかたちになったようだった。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

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私が感じたリトリートの効果

今回リトリートコースを謳う会席プランを体験して、自分なりにリトリートという言葉を改めて考えてみた。

『日常から離れてリフレッシュすること』だと先に説明したが、リフレッシュする、つまり気持ちを新たにするというよりは、むしろ今の自分にとことん向き合い、認めてあげるだけの自分の余白を持つことを、リトリートと呼ぶのではないだろうか。新たにするというよりは、本来の自分をもう一度見つけてあげること。そんな効果が、リトリートにはあるように思う。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

帰り道、車を運転しながら、すっかり「大丈夫」になった私がいることに気がついた。自分で「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせなくても、もう大丈夫な気がした。

今回あえて記事中では、教えていただいたマナーなどについては載せていない。それ以上に、リトリートを体験した自分自身の変化について書きたかったからだ。とはいえマナー自体もとても興味深いものだった。気になる方はぜひお店にお問い合わせいただきたい。

▶︎〈喜想菴〉のリトリートコース

後日談だが、実は本当にこのあとでお茶を習い始めた。その話は、またいつか。