マハラジャ(maharaja)。
サンスクリット語で「偉大な王」を指す言葉であり、歴史において宝石と密な関わりを持ってきた存在です。
現在、憲法改正により「マハラジャ」は一人もいなくなりましたが、その興味深い存在にはいつまでも興味がつくことはないでしょう。
今回はインドを統治してきたマハラジャのひとりが注文した、パティヤーラーの首飾りについて。
ある有名なフランスのジュエリーブランドが制作を手がけた首飾りとは、いったいどんなデザインなのでしょう。
マハラジャとは?インドのパティヤーラーとカルティエの関係
マハラジャという言葉を日本で耳にする機会は少ないですよね。
ただ、宝石やジュエリーに興味があるなら別。
詳しくは知らなくても、存在は知っているという方も多いのではないでしょうか。
2016年には滋賀のMIHO MUSIUMでは「ムガール皇帝とマハラジャの宝石 カタール・アルサーニ・コレクション」が開催。
数年前にはなりますが、どの宝石、ジュエリーも日本では見ることの難しいものばかりでした。
マハラジャの語源と意味
語源は「偉大な」という意味のマハーント(mahānt)と、「王」を意味するラージャン(rājan)。
「大王」という意味の通り、元来は大きな領土を統治する王のみを指す言葉。
しかし、中世以降は統治領土の大きさを問わず、マハラジャの末裔であると自ら「マハラジャ」を名乗る王族たちによって、各地にマハラジャが誕生しました。
時代によってマハラジャを冠する者が違えども、共通するのは「統治者」であったということ。
つまりは権力者であり、権威と切って離せない宝石、ジュエリーが多くのマハラジャによって所有されてきたのですね。
パティヤーラーの首飾りとは
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インド北部に位置するパティヤーラー。
18世紀、パティヤーラーの都として建てられた都市であり、パティヤーラー藩王国の首都でもありました。
※藩王国とはイギリスの従属下にあり、軍事保護条約のもと一定の自治権を付与されていた土地を指す
「パティヤーラーの首飾り(Maharajah of Patiala Necklace)」とは、1928年、カルティエによってパティヤーラーのマハラジャ、ブービンダー・シンのために約3年もの年月をかけて制作されたネックレス。
5連から成るネックレスは、プラチナの台座に2930石ものダイヤモンドがあしらわれた豪華絢爛なデザイン。
なんと総カラット数は926.25ct。
それだけではなく、世界最大級のイエロー・ダイヤモンド「デビアス」を中央にセッティング。
ダイヤモンドはメレから73ctもの大きさまで、様々なサイズ、カラーを用いて制作されたのです。
行方不明となったパティヤーラーの首飾り
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1938年、パティヤーラーの首飾りは父ブービンダー・シンから子ヤダビンドラ・シンへその所有を移しました。
しかし、ヤダビンドラ・シンの治世、パティヤーラーは財源に余裕があるとは言えない状態へ。
そんな状況下、売り払ったのか盗難にあったのかは定かではありませんが、パティヤーラーの首飾りは国庫から姿を消したのです。
これは1940年代のこと。
そして姿を消したティヤーラーの首飾りが次に姿を見せたのが1998年、海を隔てたロンドンのアンティークショップでした。
この時、数十年の時を経て発見された王のネックレスは、その輝きの多くを失っていました。
偶然にもカルティエの代理人が発見し購入。
このひどい状態のネックレスの修復に当たったのです。
実は1982年にもサザビーズのオークションにて登場しておりますが、その際には最低落札額以下で売却。
この時点で多くの宝石が損なわれていたことが推測されますね。
カルティエが行なった修復と現在の姿
現在はカルティエコレクションのひとつに数えられるパティヤーラーの首飾りですが、どのような修復が行われたのでしょうか。
総カラット数926.25ct、ダイヤモンドが主役であったネックレス。
修復当初、失われたダイヤモンドの代わりにカラーを同じくするホワイト・サファイアやホワイト・トパーズ、ガーネットやイエロー・サファイアといった宝石がセッティングされました。
しかし、ダイヤモンドの輝きの代わりとしては物足りないため、キュービックジルコニアやルビー、スモーキークオーツやシトリン、合成トパーズ、そして合成ダイヤモンドをあしらったのです。
華やかなカラーと輝きを持って新しく生まれ変わったパティヤーラーの首飾りは、2002年ニューヨークにてお披露目。
カルティエの店舗に飾られたマハラジャのジュエリーは当初から大きく姿を変え、またその価値も大きく損なわれてしまいましたが、美しい輝きは100年前とは変わらず、多くの人の心を奪ったのでした。
POINT
- 1928年カルティエにより、3年の期間を経て制作された「パティヤーラーの首飾り」
- パティヤーラーのマハラジャ、ブービンダー・シンからヤダビンドラ・シンへと継承
- 1940年代、姿を消すも1998年ロンドンのアンティークショップにて発見
- 多くのダイヤモンドが損なわれるも、カルティエの手により修復
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大学卒業後、ジュエリー専門学校にてメイキングとデザインを学ぶ。ジュエリーセレクトショップ・百貨店にて販売員経験あり。あなたとジュエリー・アクセサリーとの距離を縮める記事をお届けします。