コラム

【宝石の逸話】コ・イ・ヌール・ダイヤモンド:インド生まれのイギリス王室の秘宝

名を持つダイヤモンドの中でも群を抜いて有名なコ・イ・ヌール・ダイヤモンド

イギリス王室を象徴するアイテムのひとつ、王冠の中央に留められたダイヤモンドは、時間、そして国を跨ぎ様々な曲折を経て、その場に鎮座しているのです。

おそらく、史実に名を残すダイヤモンドの中でも最古のコ・イ・ヌール。

 

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エリザベス女王の時代からチャールズ三世の時代へ
新国王の誕生によってさらに注目を集める宝石ではないでしょうか。

今回は「コ・イ・ヌール・ダイヤモンド」にまつわる逸話をお届け。

コ・イ・ヌール・ダイヤモンドとは

ペルシャ語で「光の山」の意味を持つコ・イ・ヌール(Koh-i-Noor)

大きさは105.602ct。
原石は600ctもあった(800ctとの説もあり)と伝えられています。

かつては世界最大のダイヤモンドでしたが、現在はカリナン・ダイヤモンドにその称号を譲りました。

カットオーバル・ブリリアント

原産国はインドのラヤラシーン(諸説あり)。
イギリス王室が所有するクラウンジュエルのひとつであり、ロンドン塔にて鑑賞可能。

イギリスの王冠といえば黒太子のルビーがセッティングされていることをご存知の方も多いのではないでしょうか。

【宝石の逸話】黒太子のルビー:クラウン・ジュエルの赤い宝石

これは大英帝国王冠と呼ばれ、カリナンもセッティングされています。

コ・イ・ヌールはエリザベス女王の母であるエリザベス王妃が戴冠式の際つけた王冠にセッティングされており、ふたつは別の王冠です。

王妃の王冠とコ・イ・ヌール

1850年にインドはシク王国最後のマハラジャ、ドゥリープ・シンよりビクトリア女王へ献上されたコ・イ・ヌール。

現在までに異なる四つの王冠に飾られてきました。

実はエリザベス王妃の身につけた王冠に飾られたコ・イ・ヌールは、ビクトリア女王へ献上された時とは姿が異なり、リカット(再研磨)されたもの。

1852年に186ctから105.602ctへ大幅にリカットされたのです。
これは1851年に起こったある出来事を受けてのことでした。

コ・イ・ヌールの歴史と現在

インド、ペルシャ、アフガニスタン、そしてイギリスへ。
リカットされた経緯を語る前に、コ・イ・ヌール・ダイヤモンドの旅路を辿ってみましょう。

今から遡ること約1000年、最初の所有者はインドのカカティア王朝と伝えられています。

そこから数百年の間ペルシャ(現在のイラン)、アフガニスタンの王侯によって所有されており、1813年にランジット・シンの手によって生まれ故郷のインドへと戻ってきました。

ランジット・シンはビクトリア女王へコ・イ・ヌールを献上したドゥリープ・シンの父親にあたり、イギリスのインド植民地支配を退け、当時のインドで唯一の独立国としての地位を保持した人物。

しかし、ランジット・シン亡き後は内乱が生じ、イギリスとも戦争が起こり結果敗北。

ラホール条約を結んで講和に至り、その条約の項目のひとつにコ・イ・ヌールを献上する旨が記載されていたのです。

そうしてイギリスに渡ったコ・イ・ヌールが、はじめて国内で展示されたのは1851年の万国博覧会でのこと。

中東から渡ってきたダイヤモンドは瞬く間に話題となりましたが、その高すぎる関心のせいか大きいだけで輝かないと評され、その結果リカットされる運びとなったのです。

コ・イ・ヌールの逸話とこれから

名のある宝石には逸話がつきもの。
もちろんコ・イ・ヌールも例外ではありません。

身につけ、または所有する男性には不幸を、女性には幸運をもたらす」。
もうひとつ、「所有者が世界を支配する」というものもあります。

これは権力を持つものが覇権を取ったのち、その座を追われるなどいわば必然的な歴史の流れに沿って生まれた逸話ではないかと考えられます。

あまりに目をひく存在だったからこそ、戦利品として、または羨望の的として数々の歴史に名を残したのです。

つまり、コ・イ・ヌールを所有するから不幸になる、権力を持つといったことではなく、数々の逸話は桁外れの価値を持つ宝石の宿命ともいえるのではないでしょうか

ホープ・ダイヤモンド」も不幸を呼ぶ宝石として有名ですが、それも噂の域を出るものではありません。

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女性から男性へ、その所有が移ることに関心が向きがちですが、エリザベス女王の母、エリザベス王妃がジョージ六世の戴冠式の際、コ・イ・ヌールを身につけたため、実質身につけるならカミラ王妃と想定されます。

また、国内での所有の移行に留まらず、あまりにも有名なこのダイヤモンドは国外より度々返還を求められています。

原産国であるインドは、1947年の独立の年、近年では2015年にコ・イ・ヌールの返還を要求。

パキスタン、アフガニスタンも所有権を主張するなど、長い歴史の中での所有の移り変わりがあったゆえの複雑な事態を招いています。

ダイヤモンドを複数に分割する、博物館に寄贈するなど折衷案も提案されてきましたが、インドからイギリスに正式に贈られたものであるとして、現在はロンドン塔に鎮座しているのです。

POINT

  • 世界最大級かつ最古のコ・イ・ヌール・ダイヤモンド
  • インド、ペルシャ、アフガニスタンなど様々な王侯の手を経てイギリス王室に渡った
  • 所有する男性には不幸を、女性には幸運をもたらすとの逸話がある

語り継がれる逸話を受けてか、イギリス王室では女性のみが身につけるようになったコ・イ・ヌール

カミラ王妃の戴冠式だけでなく、これまでの、そしてこれからの歴史を考える上で重要な存在といえるでしょう。