コラム

【宝石の逸話】ドム・ペドロ・アクアマリン:世界最大の宝石彫刻

アメリカのスミソニアン博物館群のひとつ、国立自然史博物館に収められている数々の有名な宝石たち。

かの有名な「ホープ・ダイヤモンド」も展示されており、そこから約10mほど離れた場所で世界最大のアクアマリンを見ることができます。

ドム・ペドロ・アクアマリン(Dom Pedro Aquamarine)」は正面から見ると縦に長い五角形の彫刻作品。

元は1mを超える原石からカットされた芸術作品は、どのような経緯をたどって国立自然史博物館に収められるに至ったのでしょう。

今回は「ドム・ペドロ・アクアマリン(Dom Pedro Aquamarine)」について。

カットされた世界最大のアクアマリンの魅力とは?
ジュエリーではなく彫刻作品となった理由と、カットを施した職人についてお届け。

砕けた3つの塊から世界最大のアクアマリン彫刻が誕生

1980年頃、「ドム・ペドロ・アクアマリン」は、アクアマリンの産地として有名なブラジルのミナス・ジュライス州の鉱山地域から発見されたとされています。

3人の探鉱者(たんこうしゃ)により発見された当初は、1mを超える巨大なアクアマリンでした。

60cmの塊から「ドム・ペドロ・アクアマリン」へ

 

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巨大なアクアマリンは、どのようにカットするかを決める前に落下により3つの塊に。
その中で最も大きな塊が約60cm、これが最終的に「ドム・ペドロ・アクアマリン」となったのです。

高さ約36cm、幅約10cmの「オベリスク(obelisk)」と呼ばれる、古代エジプト期に制作された塔のモニュメントを象った作品です。

重量は27kgから約2kgへ、カラットで表すと10,363ct。

このカットを施したのが宝石彫刻の巨匠と呼ばれる「ベルント・ムーンシュタイナー(Berndt Munsteiner)」です。

大きな塊で発見されても、宝石質のものであれば細かく分割しルース(裸石)に仕立てられることが多いため、おそらく「ドム・ペドロ・アクアマリン」も同様に、いくつかの大小様々なアクアマリンの宝石となるはずでした。

しかし、ドイツの宝石商「ユルゲン・ヘン(Jurgen Henn)」により「ベルント・ムーンシュタイナー(Berndt Munsteiner)」の元へ持ち込まれたのです。

ファンタジーカットの父」「光の魔術師」との異名を持つ「ベルント・ムーンシュタイナー」は、先祖代々宝石の研磨職人。

ムーンシュタイナー・カット」と呼ばれる技法もあるほど、彫刻技術の高さや美しさを世界的に評価されているのです。

 

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ドム・ペドロ・アクアマリン」の制作期間は約半年。
単に表面をカットしファセットをつける標準的なカットではなく、手作業で溝をつけたりと独創的なカットが取り入れられています。

国立自然史博物館の宝石館の中で、「ホープ・ダイヤモンド」に並んで「最も価値の高い作品」と評されるほど、内側から発光しているかのようにきらめく光彩の動きが素晴らしい作品となりました。

名前の由来は2人のブラジル皇帝から

「ドム・ペドロ・アクアマリン」は発見者でなく、また彫刻を施したムーンシュタイナーでもなく2人のブラジル皇帝にちなんで名付けられました。

1822年から1831年に帝位に就いていた「ドム・ペドロ1世」と「ドム・ペドロ2世」の名を由来としたのは、発見地であるブラジルに経緯を示してのことだと伝えられています。

現在、国立自然史博物館には「ドム・ペドロ・アクアマリン」以外にも、数々の有名な宝石やジュエリーが展示されています。

「ホープ・ダイヤモンド」に「マリー・ルイーズの王冠」、「ナポレオンのダイヤモンドネックレス」や「ブルーハート・ダイヤモンド」など、目をみはるほどの作品ばかり。

魅力は「最大」というだけではなく、非常に美しい作品であるからというのが、それらのきらびやかな作品の中で展示されていることからも伺えますね。

POINT

  • 1980年頃、ブラジルのミナス・ジュライス州にて発見された「ドム・ペドロ・アクアマリン」
  • 国立自然史博物館に収められている最大のアクアマリン
  • カットは「ベルント・ムーンシュタイナー」が手がけた
  • 名前の由来はブラジルの2人の皇帝ドム・ペドロ1世とドム・ペドロ2世から

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