コラム

朝ドラ「エール」衣装に注目!窪田正孝・二階堂ふみの「モボ・モガ」時代

NHKの連続テレビ小説「エール」(月~土曜朝8時~)。昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而さんと金子さん夫妻をモデルにした物語です。

ドラマは古山裕一(窪田正孝さん)と音(二階堂ふみさん)がついに結婚し、東京へ!物語の展開とともに、画面を彩る戦前・昭和初期の衣装やさまざまな美術デザインの雰囲気も魅力的ですよね。

今回は昭和初期のファッションと朝ドラ「エール」の衣装について探ってみたいと思います。

朝ドラ「エール」の背景である昭和モダンとモボ・モガの時代

和装から洋装へ…現代の礎となった昭和モダン

明治維新以降、日本に到来した西洋文化の波と洋装。ただ男性に比べて女性の洋装化は遅めでした。
現代に通じる洋装としては、大正時代後半(1920年代)、まずは良家の子女や知識階級の婦人が海外の影響から進歩的なスタイルとして洋服を着るようになっていきます。

ルイーズ・ブルックス。

ボブカットが印象的、1920年代のアイコンとも言える女優。

バスの車掌やエレベーターガールといった「職業婦人の増加」も日本の洋装化の推進力に。
もうひとつの要因は大正12年(1923年)の関東大震災。震災の経験から、身軽に動ける洋装のよさが一般にも認知されるようになりました。

東京は震災からの復興でコンクリート建築が次々と建てられ、蓄音機にレコード、映画やラジオも普及、衣食住全般が現代の感覚にもつながる「昭和モダン」テイストになっていったのです。

当時を代表する一曲・昭和4年(1929年)「東京行進曲」(作詞:西城八十/作曲:中山晋平)には、ジャズ、ダンサー、丸ビル、ラッシュアワー、地下鉄、バス、シネマ、デパート…現代に通じるモダンなキーワードが散りばめられていますね。

昭和初期を彩る舞台としてよく登場するカフェー。カフェーの女給さんは和服にエプロン、和洋折衷ですね。(ちなみに当時のカフェーは現代のカフェとは違い、バーやクラブのような存在です。)

銀座のカフェー・タイガー(円内)とカフェ・クロネコ(1930)

大正後期から昭和初期に登場した「モボ・モガ」とは?

さて当時最先端とも言える洋装でおしゃれをしていた男女を指した言葉が「モボ・モガ」。

モボ=モダンボーイ(modern boy)、モガ=モダンガール(modern girl)

モダン(現代的)であることが特長で、女性はワンピースなどの洋装だけでなく断髪のボブカットがその新しさを表し(モダンガール=毛断嬢と当て字にされたほど)、後には最新技術であるパーマネントウェーブも人気になっていきます。
男女は「アベック」、銀座をブラブラするのが「銀ブラ」。流行の洋服に身を包み、飲酒やダンス、恋愛を楽しむモボ・モガたち…特に日本女性は洋服を着ることによって活動的なライフスタイルに変わっていきました。

銀座通りを闊歩するモダンガール (1928年撮影)
Young moga (modern girls) walk down a Ginza street in 1928 dressed in ‘Beach Pyjama Style.’

「エール」はしばらく昭和初期の音楽業界が舞台ですから、まさにモボ・モガの時代ですね。

主人公の裕一以上に、他の登場人物のほうがモダンでお洒落(古田新太さん、山崎育三郎さん、野田洋次郎さんなど…)な「モボ」設定なのかも?音は積極性も含めてまさにモダンガール!という感じです。

三姉妹の衣装に注目!仕立てられた服の可愛さ

お洒落な長女・ボーイッシュな次女・レトロモダン着物の三女

さて「エール」の女性陣では、音を中心とする関内家の三姉妹の衣装がやっぱり可愛いですね。

長女の吟(松井玲奈さん)は、華やかな色柄好みで、いかにもおしゃれさんといった風。

次女の音はチェック柄、ジャケットにネクタイ…と、直線的なラインが活かされたボーイッシュテイストです。ヘアスタイルも断髪風、「男装の麗人」が人気だった時代でもあり、音のきっぱりとした行動的な性格に合っていますよね。

三女の梅(森七菜さん)は文学少女らしく和服多め。半襟と着物の柄合わせが可愛い昭和レトロモダン。洋服の時もクラシックなイメージがあります。

服はお仕立て。衿やカフスのバリエーションも楽しい

ちなみに当時、基本的に洋服は「仕立てる」もの。仕立屋さんに注文したり、洋裁を学んで縫ったり。洋裁の学校が開かれて「原型」が考案されるなど、洋裁が広まる土台も大正から昭和初期に築かれたんですね。

日本のファッションのあゆみ──文化服装学院

今のように大量生産の既製服が全盛となったのは戦後のことです。
戦前の洋服はみな一点物。生地選びはもちろん、衿やカフスを別布で作ったり、裏地に凝ったり…当時のファッションが魅力的なのは、着る人・仕立てる人の間で育まれた創意工夫や遊び心にあるのかもしれません。

ちなみに「エール」タイトルバックで着ている音のチェックワンピースの白い衿はウィングカラー、オペラ歌手・双浦環(柴崎コウさん)が着ていた白いドレスの衿はケープカラー。衿のデザインバリエーションだけでも見ていてワクワクします。
吟が着ていた、水玉模様の衿とカフスのイエローのワンピースも可愛かったですね。

「帽子」「手袋」「サスペンダー」…小物の充実ぶりに学びたい

とにかく帽子がなくては完成しない当時のおしゃれ

当時のファッションでもう一点注目したいのはみんな「帽子をかぶっている」ところ。

特に男性は中折れ帽ハンチング、夏にはカンカン帽が必須だったようです。男性も女性も帽子がなくては洋装は完成しない!のですね。

「ターキー」こと水の江瀧子さん(1931年頃)

帽子と手袋が素敵。松竹歌劇団で断髪のターキーは大人気となり「男装の麗人」も流行語に。

大切に、完璧に決める。今また憧れるトータルなお洒落

「エール」を見ていると、帽子だけでなく眼鏡やさまざまな小物も楽しめます。男性も三つ揃えのスーツにサスペンダー…と、細部に至るまで完璧に決めています。

先ほども書いたように、戦前の洋服はきちんと仕立てる「よそゆき」「一張羅(いっちょうら、持っている服の中で最も上等なもの)」であり、大切に着るもの。

トータルにおしゃれを楽しむ、小物も揃えて完璧に決める…当時のおしゃれのありかたには、今また学ぶことが多いような気がします。

POINT

  • 朝ドラ「エール」の衣装から昭和初期のモボ・モガを学べる
  • 大量生産ではない「仕立てられた服」の魅力に再注目
  • 帽子やサスペンダーなども込みで完成するトータルなおしゃれに憧れる

昭和初期は昭和恐慌の時代でもありました。その結果、クラシックを学んでいた音楽家が生活のために流行歌の道を選び、大衆音楽が花開いたとも言えるようです。この先も激動の時代を生きる彼らの姿は、今の私たちへの「エール」なのかもしれませんね。
素敵な衣装とともに、本格的な作曲家の道を歩み始める裕一と音、二人を取り巻く多彩なモボ・モガたちのこれからに目が離せません!


連続テレビ小説 エール Part1 (1) (NHKドラマ・ガイド)