夏のアイテムとして欠かせない、キャミソールやビスチェ。
数年前、白いTシャツの上に、完全にブラジャーにしか見えない黒いビスチェを重ねた着こなしの人を初めて街で見かけたときはギョッとしたのを覚えていますが、今やすっかり重ね着(レイヤード)として定着した感がありますよね。
今回は、もともとは下着だったビスチェやキャミソール、コルセットといったアイテムがどうやって生まれ、現在のファッションにどう結びついているのか、ファッション史を振り返りながら解説します。
ルーツは中世ヨーロッパの宮廷ファッション

「ビスチェ(bustier)」「キャミソール(camisole)」「コルセット(corset)」は、ファッションや芸術の分野ではたいていそうであるように、いずれもフランス語です。さらにキャミソールはラテン語の「カミシア(camisia=シャツ)」、コルセットは「コルプス(corpus=身体)」が語源で、身体に近い場所に身につけるもの=つまり「下着」が起源と考えられます。
ビスチェは中世ヨーロッパの貴族女性が体型補正のために着用していた「コルセット」が原型で、当初は鯨のひげや、鉄製(!)の骨組みを内蔵し、ひもでウエストを締め上げる、かなり武骨な見た目の装具でした。
そんなコルセットを隠すため、優美な装飾をほどこした肌着がキャミソールの原型です。(肌を守るためコルセットの内側に着ていたケースもあるそうです)
1500年代にフィレンツェのメディチ家からフランス国王に嫁ぎ、宮廷で大きな権力を持っていたカトリーヌ王妃がコルセットを着用しはじめたのをきっかけに宮廷で大流行したといわれています(※諸説あり)。
当時、カトリーヌは「ウエストの太い女性は宮廷入りを禁止する」というルールまで作っていたとか。
このスタイルは何十年も支持され、どんどんエスカレートしていきました。当時の理想のウエストは「ヴィティーノ・ディ・ヴェスパ(スズメバチの腰)」といわれ、社交界の女性たちはウエスト40cmをめざしていたといいます。
1850年のパリの新聞には、舞踏会で踊っていた若い女性のコルセットの金属が肝臓に刺さって命を落とした事件まで報じられています。
イタリア語ではコルセットを「ガッビア・ディ・ヴェネレ(ヴィーナスの檻)」とも呼ぶことからも「美しく見えるけどきゅうくつ」と誰もが思っていたのでしょう。
女性の生き方と身体とコルセット

コルセットは、女性の身体だけではなく、生き方そのものと密接に関わっています。
映画にもたびたび登場し、1860年代のアメリカ南部を舞台とした『風と共に去りぬ』で、主人公のスカーレットが17インチ(約43㎝)のウエストを誇り、侍女のマミーに「まだまだ」とコルセットを締め上げられるシーンや、『タイタニック』でローズのコルセットをジャックが外すことで、古い価値観に縛られた生き方からの開放を象徴するシーンなど、覚えている方も多いのではないでしょうか。
現実社会でも、20世紀に入ると「見た目のためだけに身体を締め付けるのはやめよう」という動きがファッション界で出始めました。
「モードの帝王」とも言われるフランスのデザイナー、ポール・ポワレが「エンパイア・スタイル」と呼ばれるハイウエストのドレスを発表し、コルセットなしでも美しく見せることが可能になりました。
また1917年、アメリカが第一次大戦に参戦した際には、金属の確保のため米政府が女性たちに「コルセットを買わないで」と要請。このような流れで、コルセット文化は終わりを迎えます。
その後、コルセットは、ウエディングやパーティーなど特別な礼装のときにシルエットを整えるために着用するアイテムとして使われてきました。
マドンナの衣装で、いっきにビスチェが「見せるアイテム」へ

1990年、マドンナのワールドツアー「Blond Ambition Tour」で着用した衣装が世間を騒がせました。
ヒカリモノガタリ世代の女性なら覚えているかもしれませんが、黒のスーツから、艶々のピンクのサテンのコーンブラ(円錐形のブラジャー)が飛び出すこの衣装は、ジャン=ポール・ゴルチエがデザインしたもの。
下着が「見せるアイテム」に変わったのはこれがきっかけと言われ、今でもこの衣装はニューヨークのブルックリン美術館などに永久所蔵されています。
ゴルチエは「このコーンブラは実は人間用ではなく、テディベアのためにデザインしたんだ」と後に語っているのも面白いエピソードですよね。
一方で、アメリカでは「女性の開放と自立のために、身体を縛るコルセットを焼き払え!」がフェミニズム運動のスローガンになったり、近年の韓国でも「脱コルセット(탈코르셋)」として、化粧・長髪・ハイヒール・ダイエットなどの押しつけに”NO”と宣言する運動が起こったりしました。
ビスチェやコルセットを手放すのと堂々と見せるのとは、一見正反対に思えますが、「自分の装いは自分の意志で決める」という1つの同じ思想から生まれたものだといえるのではないでしょうか。
現代のビスチェ・キャミソール・コルセットの着こなしトレンド
現代でも、身体のラインや洋服のシルエットを美しく見せるため、日常的にコルセットをつけている人は一定数います。
しかし、今ではより身体に負担のない製品が多く開発されており、コルセットが昔のように「檻」と呼ばれることは今後減っていくでしょう。
「見せる」着こなしでは2026年も引き続き、ブラウスやカットソーの上からビスチェやキャミソールを着けてメリハリのあるシルエットを楽しむコーディネートの人気が継続中。

暑い時期には、ビスチェやキャミソールにさらっとシャツやカーディガンを羽織るのは永遠の鉄板コーデですね。

レースやシアー素材のシャツを重ねると、さらに今年らしい印象に仕上がります。

POINT
- コルセットの起源は中世ヨーロッパ。ウエストを細く見せるスタイルが広まった
- 近代になって脱コルセット運動も起き、より身体に負担のないファッションへ変化
- 現代ではあえて見せる着こなしも。ファッションアイテムの1つとして定着
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フリーライター。新聞社や大手通販サイトにてファッション・ライフスタイル系記事を執筆中。幅広い世代の流行やトレンドから、自分を含めた大人女性が毎日のファッションにリアルに取り入れられるアイテムや着こなしのヒントを厳選してお届けします!





