「A Diamond Is Forever(ダイヤモンドは永遠の輝き)」。
今でも使われ続けているこのスローガンは、ダイヤモンドの価値を揺るがないものにしました。
愛の価値を、透明の宝石の輝きや色、そして大きさで表すことに憧れを抱かせたのです。
しかし、その価値が「作られたもの」であればどうでしょう。
輝きや色、そして大きさが特別秀でていても、私たちはその作られたものに「愛の価値」を認めることができるのでしょうか。
今回は合成ダイヤモンドをテーマにしたドキュメンタリーをご紹介。
合成ダイヤモンドをめぐるさまざまな意見をみていきましょう。
「(ノット)・ラスティング・フォーエバー: ダイヤモンドをめぐる不実な真実」のあらすじ
2022年にNetflixで公開されたドキュメンタリー「(ノット)・ラスティング・フォーエバー: ダイヤモンドをめぐる不実な真実」。
ダイヤモンド業界に浸透しつつある合成ダイヤに光を当てたドキュメンタリーで、業界内部の関係者たちが世間一般の認識にメスを入れ、合成宝石の実態を明らかにするをテーマにしています。
参考記事:合成ダイヤモンドとは?
合成ダイヤモンド、いわゆる「ラボグロウンダイヤモンド」にまつわる関係者の意見が飛び交う中で、「ダイヤモンドの価値とは何か」を視聴者に問いかけています。
さまざまな立場の関係者が登場しますが、ネタバレを控えてここでは大きく「研究者側」と「販売側」に分けて、それぞれの意見をご紹介しましょう。
研究側
- 合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンドよりも完璧なものを作れる
- ダイヤモンドの価値は技術力
- 100年以上前には高価な贈り物を愛の証とする慣習はなく、マーケティングが作り上げたもの
あなたが完璧なダイヤモンドを求めるのであれば、合成ダイヤモンドこそがその要望を叶えてくれるといったように、合成ダイヤモンドの価値を技術力においています。
また、婚約・結婚時にダイヤモンドの指輪を贈るのも、マーケティングによって作られた「新しい慣習」であり、そこにダイヤモンドの価値はないとも主張しています。
一方で販売側の主張はこのようなものになっています。
販売側
- 合成ダイヤモンドを婚約・結婚指輪として販売することはダイヤモンド産業の倫理に反する
- 女性が自身の価値がダイヤモンドの価値であると捉えている側面がある以上、ダイヤモンドという夢を売っている
ダイヤモンドに高い価値を持たせることで、一生に一度の贈り物となっている現状があるからこそ、女性に夢を持たせている「象徴としてのダイヤモンド」に価値があると主張。
つまり、カラットの小さいダイヤモンド(安価なダイヤモンド)では、贈られる側が自身の価値を低く捉えてしまうように、合成ダイヤモンドを婚約・結婚指輪として贈られたなら、その女性は自身の価値を低く捉えてしまうだろうということ。
この意見には賛否両論ありますが、ドキュメンタリー内でも0.5ctの合成ダイヤモンドを作って婚約指輪にして贈った研究者が、元婚約者に「大きいものが良かった」と言われてしまったというエピソードがあります。
この不満が大きさに由来するものか、または合成ダイヤモンドであること自体が問題だったのかは不明ですが、どちらにせよ喜ばれなかったという事実として残っています。
合成ダイヤモンドが市場に占める割合
最近では専門のブランドが登場しているなど、私たちの身近に存在する合成ダイヤモンド。
ラボグロウンダイヤモンドとも呼ばれていますが、実際には研究所ではなく大きな工場で、工業製品が作られるような形でも生み出されています。
大量生産が可能となった現状で、現在どのくらいの合成ダイヤモンドがダイヤモンド市場に出回っているのでしょうか。
2020年から2021年のレポートでは、ダイヤモンド原石市場の6%程度を合成ダイヤモンドが占めているとしています。
参考記事: https://www.d-edp.jp/about/3step/step2/
しかし、これはあくまで追跡可能な「原石」であり、研磨済みのダイヤモンドとなれば話は異なります。
ドキュメンタリー内で、合成ダイヤモンドの混入はすでに起こっていると指摘。
メレダイヤモンドの1〜5%に、合成ダイヤモンドの混入があるかもしれないといった業界の現状に言及しました。
原石の状態では見分けがつく天然と合成も、研磨されると見分けがつかないため、天然と合成を見分ける鑑定装置も登場。
すべてのダイヤモンドを100%完璧に識別できるわけではありませんが、蛍光や燐光を用いて分析を行うことで、天然と合成を判別可能としているようです。
合成ダイヤモンドのこれから
ドキュメンタリー内で、天然ダイヤモンドこそが「ダイヤモンドの夢」と謳ったデビアスは、2018年より合成ダイヤモンドの販売を開始。
合成ダイヤモンド専門ブランド「LightBox(ライトボックス)」は、天然ダイヤモンドの半値を下回る安価な価格で販売を開始。
デビアスは天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドとの棲み分けを明確にするために、この合成ダイヤモンド市場への参入を決めたものの、2025年には撤退を決定。
これは消費者が合成ダイヤモンドを、単なる天然ダイヤモンドの代替品としてみていないことを明示しています。
天然と比べて安価であること以上の付加価値を消費者に与えることができなければ、合成ダイヤモンドはこれからも、天然市場に出回る単なる「偽物」以上にはなり得ません。
合成石が問題なのではなく、合成石だと隠すことで恐怖を生み出すことが問題であるとドキュメンタリー内でも述べられています。
天然ダイヤモンドに数々の「神話」や「逸話」があるように、合成ダイヤモンドにも合成ならではの魅力を訴えるある種の「神話」が必要なのかもしれません。
POINT
- 「(ノット)・ラスティング・フォーエバー: ダイヤモンドをめぐる不実な真実」は合成ダイヤモンドに焦点を当てたドキュメンタリー
- 2018年にデビアスが合成ダイヤモンド専門ブランド「LightBox(ライトボックス)」を立ち上げるも2025年に撤退を発表
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大学卒業後、ジュエリー専門学校にてメイキングとデザインを学ぶ。ジュエリーセレクトショップ・百貨店にて販売員経験あり。あなたとジュエリー・アクセサリーとの距離を縮める記事をお届けします。