フォトエッセイ

伸びた髪に、アレクサンドルドゥパリのヘアピン。【- Shining Moments:43 -】

少し暑さが落ち着いてきた。涼しいような気がする朝、身支度をしながら、自分の髪の毛が思っていたよりずっと伸びていることに気がつく。あ、そろそろ使えるかも、と取り出したのが、優しいブラウンオレンジの華奢なヘアピン。マナミが去年贈ってくれたヘアピンを、この秋初めて使ってみたいと思う。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

マナミのこと

マナミという友人がいる。彼女は私より8つ歳上の女性で、出会いは仕事先だった。初めて一緒に仕事をしてからしばらく経ったある日、思いがけず「会いましょう」と連絡をくれて、プライベートで食事をした。その日の彼女はマルジェラのデニムワンピースを着て、アーツアンドサイエンスのくたっとした黒いボストンバッグを持っていた。

二軒目のバーで、もう呼び捨てで呼んでよ、敬語も禁止、私たちもっと仲良くなれると思うから、と言われた。実のところ私は仕事とプライベートにはっきり線を引きたいタイプなので、内心気まずいなと思ったのだが、了解した。その日、まだタメ口が落ち着かなくて「お疲れさまです」と別れようとした私に、やめてよ仕事みたい、とマナミは笑った。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ|昨年撮影させてもらったマナミのポートレート

それから数年、私たちの付き合いはずっと続いている。マルジェラは服を何着も集めるくらい好きなブランドなのだと分かったし、アーツのバッグを気に入っていてどんな服装にでも合わせていることを知った。私たちはよく演劇鑑賞や演奏会に出かけ、そのあと感想を話し合いがてら良いレストランで食事をする。彼女は料理を頼みすぎる傾向にあるので、私が止める。お酒は少し。食後はどれだけお腹が一杯でも必ずコーヒーとデザート。

彼女のことが大好きだ。選ぶ言葉も、所作も、着る服も。話していると、ふと弱音を話せる自分に気が付く。彼女は私が相談事を持ち出すと、口を厳しくきゅっと結び、けれども目は穏やかに聞いてくれる。そして私の言葉を復唱して、少し考えて、一緒に解決方法を見つけようとしてくれる。時々怒られることもあるが、そういう言葉にも素直に耳を傾けられる私がいる。

こういう人に人生で何人出会えるのだろう、と、帰りの電車に揺られながら私はいつも考えてしまう。そうして思いつく顔が何人もいることをとても幸せだと感じるし、浮かびそうで消えていく顔が何人もいることもまた人生だと感じるのだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

アレクサンドルドゥパリ×アーツアンドサイエンスのヘアピン

そんなマナミが去年の私の誕生日に贈ってくれたのが、透明感のあるブラウンオレンジのヘアピンだった。

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私はもともとアレクサンドルドゥパリのファンで、パールのヘアクリップを愛用していた。髪が短くてもハーフアップにする時はよく使っていて、ある日の打ち合わせでつけていると、それを見たマナミが「あ!」という顔をした。そして、実は今あなたのお誕生日プレゼントを見ていてね、アレクサンドルドゥパリ似合うだろうなって思ってたら、やっぱり使ってたんだ!と、彼女は可愛くネタバレをした。

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いただいたヘアピンは、アレクサンドルドゥパリの代表的シリーズ「Timeless」の、アーツアンドサイエンス別注カラーらしい。マナミが愛用しているバッグのブランドだ。プレゼントは、受け取る人の好みであることはもちろんだけど、贈る人らしさが滲み出ているものほど嬉しい気持ちになれる気がする。そういう意味でこのヘアピンは、とってもマナミらしいチョイスだと思った。

ただ去年の12月、私の髪はまだボブだった。ボブにヘアピンは、ちょっと可愛すぎるかも?そこで、ちょうど髪を伸ばそうと決めていたのもあり、ほどよく伸びたところでこのヘアピンを使うことを心待ちにしていたのだ。それが、今。

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髪を下ろして、ヘアピンを留める。私の染めていない濃い色の髪に、上品な一本のラインがよく映えた。なんだかシャンとした気持ちになる。それは多分、ヘアアクセサリーをつけているという高揚感だけでなく、マナミがくれたものだからだろう。

私は誰とでもよく話せるほうだけれど、しかし同時に友人を作ることがそれほど得意ではないとも思っている。どういう人を友人と呼ぶのかは人それぞれだが、私は、その人が誇れる自分でありたいと思える時、その相手を友人だと認識することが多い。

私は、マナミが誇れる自分でありたい。そして、髪が今よりさらに伸びた日にもきっとマナミが友人でいることを、心強く思う。このヘアピンを手にするたび、私はこの気持ちを思い出して、背筋をちょっとだけ伸ばすはずだ。

マナミへ。いつもありがとう。来月あたり、ごはんね。