フォトエッセイ

妹がいたなら、きっと。お誕生日にもらった「Buly」の美しい櫛【─Shining Moments:23 ─】

交友関係についての考察

これはおそらく読者の半分くらいの方には共感してもらえると思うのだけど、交友関係ってなんとなく、自身の兄弟編成に依るところがないだろうか。兄がいる人なら兄、姉がいる人なら姉、妹、弟、と、自分の兄弟と同じポジションの人に惹かれてしまう現象ってあると思う。それは恋愛でなくとも(むしろ恋愛ではないケースの方が多いのかもしれない)友情とかで。

ところで私は弟が一人いる姉なのだけど、「姉がいる弟」を結構な確率で当てることができる。そしてそういう男性のことを、特に可愛く感じる。私が弟のことを可愛がっていることもあると思うけど、何か買ってあげたいとか、何かしてあげたいとか、そういう庇護欲のようなものが掻き立てられるのだ。

しかし一方で、妹という存在のことが、私にはよく分からない。実際に妹がいないのは仕方ないけど、弟みたいだと思う子はいるのに、妹みたいだと感じたことがなかった。そういえば、年下の女性で仲が良い子もほとんどいない。

実際に妹がいたり、妹みたいな子がいる人の話を聞くと、ショッピングに行ったり、洋服を貸し借りしたりコスメの情報交換をしたり、楽しそう。……そんな存在を少し羨ましいなと思っていた矢先、私も、これから関係を育みたい女の子に出会った。

モードが似合うお洒落なあの子

彼女は、かつて教師をしていた夫の元教え子で、夫が特に可愛がっていた生徒だった。現在大学院生。たまに我が家の夕食にも招待する仲である。

最初に見た時、なんて可愛い子だろうと心が躍ったことを覚えている。お洋服は基本的に黒を基調としていて、モードな感じ。パッツンの黒髪ボブと白い肌、赤いリップがよく似合っているけど、そのツンとした印象に反して笑顔がとても可愛い。礼儀正しく控えめで、よく気がきく。そんな女の子だ。

もう数年の付き合いになるけど、私にもプライベートな話を色々としてくれるようになったのは ほんの最近のことだ。どんな音楽が好きで、どんなラジオを聴くとか。フィルムカメラに興味があるとか。そういう他愛ない話をするにつれ、私の中で彼女の存在が次第に立体的になっていった。人との関係性が育まれる この過程が、私は好きだったりする。

そんな彼女が昨年末の私のお誕生日に、贈り物をくれた。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

 

名前が刻まれた「Buly」の美しい櫛

包みを開くと、そこには「Officine Universelle Buly(オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー)」の美しい櫛が。私は おどろいた。だって、実はこの櫛、私が最近ずっと欲しかったものだから。持ち運び用のコーム……それも持っているだけで気分が高まるような特別なものを ずっと探していて、友人に「Bulyはどう?」と勧められてから気になっていたのが、まさにこのアイテムだった。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

1803年創業の、パリの総合美容専門店である「Buly」。熟考された自然素材でつくられた香水や油薬クリーム、化粧品が特に有名ではあるが、この老舗のために厳選された、純度の高い原材料による美容グッズもまた、人気を集めている。

ヘアケアアイテムとしての櫛も、「Buly」で人気の美容グッズの一つ。植物由来の上質なアセテートを用いて スイスの工房でハンドメイドされている櫛は、彫金細工にも匹敵するほどの複雑な手順を経て 一本一本丁寧に仕上げられており、なんとも贅沢な雰囲気だ。コームというより なんとなく櫛と呼びたくなるような、美しい佇まいの逸品である。

それに専用のベロアのケースがまた美しい。真紅と金糸の組み合わせが絶妙で、心くすぐられる。「大切にさせてくれる」ような風格、「持ち歩きたくなる」特別感を、この櫛なら備えていると思った。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

そういうわけですっかり虜になった私は「Buly」の櫛を買おうと決めたのだが、しかし何度かお店に足を運ぶも目当てのアイボリーカラーが在庫切れで、全国的に入荷時期も分からないのだと聞いて、渋々諦めていたのだった。

そんな「Buly」の櫛が、しかもアイボリーカラーの櫛が、包みの中にはあった。どうやら夫も(本当に)知らなかったようで、彼女の主観で偶然、この贈り物を選んでくれたのだそうだ。私はあんまり嬉しくて、ラッピングについていたシールはすぐに手帳に貼り替えたほどだった。だって今まで誰からも、ちょうど欲しかったものを ぴったり贈ってもらうことなんてこと、なかったのだから。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

 

妹がいたなら、きっと

櫛の裏には、名前が刻印されていた。LUNAYAMADAという金色の文字を指で辿りながら、彼女がどれだけ私のことを考えて選んでくれたのかを想像してみる。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

ああ、こういうことかもな、と、妹というものを ふと理解できたような気がした。興味を同じくする性だからこそ分かることが、やはり あるように思えた。

きっと彼女は、私が髪を伸ばそうと試みていることや、その過渡期の微妙なヘアスタイルを 出先でも気にしていることに、気づいていたのだ。それに、ファッションやインテリアの傾向から、好みの色も。だから、持ち歩きたくなるような特別な櫛を、アイボリーカラーの櫛を、選んでくれたのだと思う。

妹がいたならきっと、こういう贈り物をしてくれるんだろう。
そして今私にもそんな存在ができそうなことに、私は髪を梳かしながら、とても温かく優しいような気持ちになった。なんだか心まで、髪の毛と同じようにツヤツヤしてくる気がした。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

私は今、彼女を買い物に誘う機会を窺っている。「ルーナさん」とまだまだ他人行儀だけれど、今年は一緒にショッピングに行ったり、洋服を貸し借りしたりコスメの情報交換をしたり、してみたい。

すてきな贈り物をありがとう、大切にするね。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

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