2025年、「アール・デコ(Art Déco)」誕生からちょうど100年目。
1920〜30年代に世界中を席巻したこのデザイン様式は、建築やインテリア、ファッション、そしてジュエリーの世界にまで影響を与えました。
直線と曲線で構成された幾何学模様に、左右対称の構図、大胆な配色からなるコントラスト。
その自由でモダンなイマジネーションは100年の時を超えてなお、私たちの生活にあり続けています。
今回は「アール・デコ」について。
「アール・デコ」の歴史とその背景。アール・ヌーヴォーからの流れに、そして現代に続く影響と最新の100周年イベントまでを紐解きながら、その魅力を探っていきます。
アール・デコとは。アール・ヌーヴォーとの違い
時代の大きな転換期であった1920年代。
この第一次世界大戦後の復興期に生まれたのが「アール・デコ」。
機能性と美を両立したデザインが特徴であり、新しい時代の象徴としてさまざまな分野に影響を与えました。
しかし、具体的に「アール・デコ」とは一体どのようなデザインを指すのでしょう。
まずは「アール・デコ」誕生の歴史をみていきましょう。
アール・デコの誕生と歴史
「アール・デコ(Art Déco)」という名称は、1925年にパリで開かれた「国際現代装飾・産業美術展覧会(Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels Modernes)」、通称「パリ万国博覧会」に由来。

「パリ万国博覧会」ポスター シャルル・ルーポ画
「Art Déco」はフランス語で「装飾美術」。
ここで披露された作品たちは芸術史上極めて重要なものとして、後に「アール・デコ様式」と呼ばれることに。
アール・デコの特徴は、幾何学的な線や構成、左右対称のデザインに、強いコントラストを活かした素材使いにあります。
機械化時代を賛美するかのようなデザインは、高層ビルなどの建築に機関車、ファッション、そしてジュエリーにまで取り入れられるようになりました。
しかし、アール・デコの特徴はこれだけではありません。
アール・デコに大きな影響を与えたのは、1922年のツタンカーメン王墓の発掘。
この世紀の発見により、アール・デコ調のアーティストたちは、古代エジプトや東洋の意匠を取り入れるように。
こうした時代の流れと新鮮なインスピレーションが、美の形として結実したものが「アール・デコ」なのです。

『VOGUE』誌 1926年9月号表紙 エドゥアルド・ベニート(スペイン語版)画
アール・ヌーヴォーとの関係性
アール・デコをより深く理解するには、「アール・ヌーヴォー(Art Nouveau)」への理解も欠かせません。
アール・ヌーヴォーとは、19世紀末の産業社会を背景に広がった芸術運動を指します。
自然の曲線や花・蔦などの有機的モチーフを特徴とし、手仕事のぬくもりを重んじました。
第一次世界大戦でそのトレンドが終焉を迎えるまで、ヨーロッパを中心に広がりをみせたのです。
「Art Nouveau」はフランス語で「新しい芸術」を指します。
産業革命に対抗する形で誕生し、自然界の有機的なモチーフや自由な曲線美を追求したアール・ヌーヴォー。
こうして流行したアール・ヌーヴォーの曲線を中心とした有機的なスタイルは、直線的で幾何学的なアール・デコへと様式が変化したのです。
アール・デコが与えた影響。建築とジュエリー

単なるデザインの枠を超え、ライフスタイルにまで広がったアール・デコ。
装飾性に加えられた機能性に、直線と光のコントラスト、そしてモダンな構造美。
これらの要素は建築やジュエリーにおいても顕著に表れています。
アール・デコの建築とジュエリー
ニューヨークの「クライスラー・ビルディング」や「エンパイア・ステート・ビル」は、アール・デコの建築の象徴といえるでしょう。
近未来的でシンメトリーなデザインに、未来への希望が込められていました。
アール・デコは、ジュエリーの世界でも「構築的な美」を体現。
プラチナやホワイトゴールドを基調に、オニキスやクリスタル、ダイヤモンドを幾何学的に配置した構築的なデザインは、繊細さの中に強さを表現。
女性の社会進出が進んだ背景もあり、「飾る」だけでなく「表現する」ジュエリーへ。
ジュエリーを身につける意味が変容し、現在のジュエリー業界を取り巻く環境の基礎を固めたのもこの時代だったのです。
アール・デコ100周年イベント3選
そして2025年―。
アール・デコ誕生から100年を記念する特別な年に、多彩なイベントが開催されています。
永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーが語るアール・デコ(東京都庭園美術館・東京/白金台)
会期:2025年9月27日[土]〜2026年1月18日[日]
1925年の「アール・デコ博覧会」から100年の記念展示。
ヴァン クリーフ&アーペルのアール・デコ期の作品を中心に、ジュエリー・時計・工芸・アーカイブ資料を数百点展示。
新時代のヴィーナス!アール・デコ100年展(大阪中之島美術館・大阪/中之島)
会期:2025年10月4日[土]〜2026年1月4日[日]
「アール・デコと女性」をテーマに、グラフィックデザイン、ドレス、香水瓶、ジュエリー、クラシックカーなど幅広い分野からアールデコの美意識を紹介。当時のモダンを象徴するアイテムが多数展示。
アール・デコとモード — 京都服飾文化財団(KCI)コレクションを中心に(三菱一号館美術館・東京/丸の内)
2025年10月11日[土]〜2026年1月25日[日]
服飾文化財団所蔵の1920年代〜30年代のモード(ドレス・テキスタイル)約60点を核に、アールデコ様式の「ファッションとしてのモダンデザイン」を紹介。ジュエリーだけでなくファッションに触れたい方におすすめ。
アール・デコとモード — 京都服飾文化財団(KCI)コレクションを中心に
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POINT
- アール・デコは1920〜30年代に誕生した、幾何学・直線・対称性を特徴とするモダンな装飾様式
- 建築にファッション、ジュエリーやライフスタイルに影響を与え、時代の変化を象徴
- 100周年を迎える2025年に、東京・大阪で展覧会が開催予定
【あわせて読みたい】取り上げた展示のうち2つは、2025年おすすめ美術展でも詳しくご紹介しています
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大学卒業後、ジュエリー専門学校にてメイキングとデザインを学ぶ。ジュエリーセレクトショップ・百貨店にて販売員経験あり。あなたとジュエリー・アクセサリーとの距離を縮める記事をお届けします。




