コラム

「カルティエ、時の結晶」(国立新美術館)【美術館散歩】

11月某日、東京・六本木の国立新美術館で開催中の「カルティエ、時の結晶」に行ってきました。

東京メトロ乃木坂駅直結。鑑賞前から期待が高まります…!

闇の中から奇跡が現れる。斬新な展覧会「カルティエ、時の結晶」

「カルティエ、時の結晶」は、「時間」をテーマに、1970年代以降の現代作品に焦点を当て、カルティエのイノヴェーションに満ちたデザインの世界を探求しようという試み。

壮大な時間を経て見出された宝石×世界各地の文化や自然物から着想されたデザイン×卓越した職人技術…その奇跡の結実は地球や文明との時空を超えた対話であり、世界の縮図でもある、という視点が興味深いです。

美術館に入り、企画展示室2Eへ。不思議な闇の世界への入り口を辿っていきます…。

序章「時の間」…圧倒的な宝飾芸術の世界へ。

暗闇の中に浮かび上がる巨大な時計は時をさかのぼる≪逆行時計≫(杉本博司 2018年、個人蔵)。そしてミステリークロックやプリズムクロックが展示されている序章「時の間」へ。

展示風景 序章「時の間」 新素材研究所
© N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida
Photo : Yuji Ono

序章「時の間」を過ぎると、始まるジュエリーの展示。

闇に浮かぶ奇跡、品格を保ちながら燦然と輝くインパクトに思わずのけぞります。

あらゆる意味での価値の高さに陶然、嘆息。展示数は約300点、美しい会場構成の中、ひたすらクリエイティブで絢爛たるカルティエの世界に圧倒される流れが最後まで途切れません!

第1章 色と素材のトランスフォーメーション

19世紀末、プラチナの採用から花開いた繊細で優雅なデザイン、グリプティックや象嵌といった技法、「トゥッティフルッティ(フルーツ尽くし)」と呼ばれる、色とりどりの宝石を組み合わせた華やかな配色のジュエリーなどが紹介されていきます。

第2章 フォルムとデザイン

第2章は特に印象深い空間でした。

組み上げられた大谷石が使われた、地底の洞窟のような不思議な空間。
スクエアで静謐なムードの中、フォルムとデザインという視点から選ばれたカルティエのジュエリーや時計が浮かび上がります。


展示風景 第2章 新素材研究所
© N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida
Photo : Yuji Ono

100年の時を超えて表現される優美なフォルムや、視覚的な効果の妙、顧客のアクシデントから生まれたデザイン「クラッシュ」、インダストリアルモチーフ;マイナスドライバーから生まれた有名な「LOVE」シリーズ…常にフォルムとデザインを追求するカルティエの姿勢を感じる章です。

第3章 ユニヴァーサルな好奇心

緻密で美しいデザイン画やデザインにインスピレーションを与えた美術書や資料写真などが展示されるアーカイヴのコーナーを経て、世界各地の文化や自然物から生まれた独創的な作品が展示される第3章へ。(ここからは写真撮影も可能。)

《ネックレス》カルティエ、2013年
イエローゴールド、86.85カラット エメラルドカット イエローベリル 1個、イエローダイヤモンド、オレンジダイヤモンド、ブラウンダイヤモンド、オニキス、エメラルド、ダイヤモンド
個人蔵

《ネックレス》カルティエ、2008年
プラチナ、アンティークのブルーファイアンス、オパール、オニキス、エメラルド、サファイア、ダイヤモンド
個人蔵

《ネックレス》カルティエ、2014年
ホワイトゴールド、9.03カラットのコロンビア産 ステップカット エメラルド 1個、エメラルド、黒曜石、ダイヤモンド
個人蔵

彗星の軌道を思わせる楕円のフォルムの展示台は「ワンワールドケース」、地球を意味しているとも。世界中の文化や自然を取り込んできたカルティエの世界観を表現しています。

展示風景 第3章 新素材研究所
© N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida

研究員レクチャーから学ぶ、「カルティエ、時の結晶」の魅力。

今回は研究員の方のレクチャーをお伺いすることができました。

「人間がどうして宝石に魅かれていくのかをひもとく」視点からの展覧会で、空間そのものを美術作品として展示しているのが新しい試みということです。

闇を創り出しているのも、過去にさかのぼるための闇。闇は宇宙空間であり、物質を創り出してきた「あたたかい闇」でもあります。

大谷石を使用した展示空間(第2章)は、大谷石自体が1500万~2000万年前の海底火山噴火を元に生まれた堆積層ということから「地底の中の宝石」を見い出す疑似体験をするために考えられたそう。

いちばん興味深かったお話は、宝石の元素、例えばダイヤモンドならC(炭素)、こちらを並べたあとに、人体を構成する元素も紹介されたところ。

「ひとの構成要素の中に宝石がいっぱい入っている」(!)

人体と宝石は無縁のものではない、という視点は非常に新鮮でしたし、何だかすべての子どもたちに伝えたいような言葉でした。

最初に、宝飾の専門ではないので…とおっしゃっていたのですが、むしろそれだからこそ「時間」や「物質」といった根源的・哲学的な話題が繰り広げられた研究員の方のレクチャー、非常に興味深く面白かったです。

いわゆる時代順のメゾンの作品や繁栄を伝える宝飾展とはすこし違う、でもカルティエの偉大さには圧倒される上に、宇宙や自然と人間との歴史や関わりに深く思いを馳せることのできる展覧会「カルティエ、時の結晶」。新素材研究所による展示構成も印象的で、他にはない鑑賞体験とともに想像力を広げてくれる展覧会でした。

会期は12月16日まで。ぜひ訪問してみてくださいね。

カルティエ、時の結晶

■会期:開催中~2019年12月16日(月) 毎週火曜日休館

■開館時間:10:00~18:00 毎週金・土曜日は20:00まで

※入場は閉館の30分前まで

■会場:国立新美術館 企画展示室2E

詳細は下記Webサイトでご確認ください。

「カルティエ、時の結晶」 展覧会ホームページ

国立新美術館ホームーページ‐「カルティエ、時の結晶」

本記事内画像は「カルティエ、時の結晶」より掲載許可をいただいた画像およびヒカリモノガタリ編集部で撮影したオリジナル画像になります。無断転載を禁じます。