予約した日に、美術館へ行く
急に冷え込んだ日の午後、ひとりで美術館へ。
天気予報など意識せず、かなり前に予約をしてしまっていた日なので、自分に号令をかけて。
予約制の美術展が増えているけれど、行動のモチベーションにはよいのかもしれない。
気温の変化も、ずっと出番を待っていた秋冬の装いを楽しむためと思えば、さほどこたえない(強風や豪雨でなくてよかった)。
最近増えてきた、単独行動。
そういえば少し前、「おひとりさま」や「ソロ活」という言葉が流行したな。
単独行動になにかポジティブな定義づけをしたいという、社会の見えない願望があるのかもしれない。
そうでないと、単独で何かするのは、さびしい?
そんなことはない。人生の時間は、自分だけの宝物。わたしのひとり時間を楽しむのに、もとより定義はいらない。

「出かけるのがおっくう」を見直して
年を重ねるにつれ、出かけるのがおっくうになるという人も多い。
おっくう…億劫とは、面倒で気が進まないこと。
もともと仏教用語の億劫(おっこう)で「劫」は非常に長い時間を表す単位、それに億がつく。「あまりにも時間がかかりすぎて耐えられない」というのが元の意味だそうだ。
時間がかかりすぎる…現代は、そんな事柄じたいが、なくなっているかも。
タイパ(タイムパフォーマンス)なんて言うように、なんでも時間をかけずに、手早く済ますのがイマドキだ(げんに、上記の億劫の意味も、検索して出たAI回答の抜粋)。
人それぞれ、さまざまに時間はとられる。仕事、家庭、介護…大人の女性のスケジュールは慌ただしい。日々情報はやってくる、考え事もいろいろ。
その分、自分に対して費やす時間も、ずいぶんと細切れで雑になりがち。
友達と会うときは気合をいれるかもしれないが、その時間も、謎に気を遣っていたりして。
自分の心だけをゆったりと大切にすることって、意外となかなかできない。
だからこそ。
バタバタと「何かのついで」にしない、細切れにしない、柔らかで広々とした時間を、あえて楽しんで作るのも大切なのかもしれない。
自分のためにおしゃれをする
ひとりでお出かけするメリットは、自分のために、自分だけのおしゃれができる、という点にもある。
人にもよるけれど、私は仕事ならその仕事の光景に合った服装、と、相手や環境の期待に応えようとする傾向があるので、なおさらだ。
例えば大きな色石のついたリング。
きらめきがありすぎて、仕事の時にはほぼ着けないその指輪を、久々に出動させて美術館に連れていく。
きっと指輪も喜んでいる、気がする。
この頃通勤着がワンパターン、とか、いつもつい黒やグレーの地味色を選びがちだけど本当はきれいな色が好き…といった方も、ぜひ自分のおしゃれチャンスを作って、楽しんでほしい。
スマホを見ない移動時間
電車を乗り継いで美術館へ向かう。
実は最近、移動時間にはなるべくスマホを見ないようにしている。
スマホを見ていると、自分の入り浸っている狭い空間みたいなハコがそのまま自分に絡みついてきている気がするから。
そうそう。
さっき書いた「柔らかで広々とした時間」というのは、細切れ時間にスマホばかり見てしまう、俯き加減の習慣との対比でもあるのだ。
電車の中だけでも、見渡せばさまざまな発見がある。外国人の旅行者、増えてるな。おしゃれな人がいるなあ、あのコーデいいな。とか。
せっかく自分もおしゃれしているのだし。顔を上げて、姿勢をよくして。世界の広さを取り戻したい。
リアルな感動は他には代えられない
さて、今回向かったのは、国立新美術館の企画展「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」。

絵であれ工芸・宝飾品であれ、その「ほんもの」の力は何なんだろう。
たとえばジュエリーであれば、石を採掘して。カットして。色やサイズを揃えて。それを緻密に石止めして。その奥には人間の創造性や知力、数学美学があって、さらにその背景にはとてつもない財力や野望があって…といった諸々の総力が0.01秒で脳内に飛び込んでくる。
いや、それさえも後付けの理屈で、幼い少女さえ釘付けになっている「キラキラ!綺麗!」の圧倒的なパワー!
誰もが心を射抜かれている。
王侯貴族が美術品や宝飾品を求めるのもわかる。そこにあるのはまさに、途方もなく億劫な手間をかけたを壮大な美の価値。
外、寒いな…という朝のためらいを乗り越え、ひとり時間を作り足を運んだ自分を寿ぎたくなる瞬間。


テーマや語られている内容にもヒントは多い。
カレイドス…「美しい(カロス)」と「形態(エイドス)」を意味するギリシャ語にちなんだタイトルは、ギリシャからローマへ、そして世界へと発展したハイジュエラー・ブルガリのブランドカルチャーを表現している。
色彩や配色にフォーカスした万華鏡のような展示、エキゾチックな瞳に見つめられているようなデザイン…ブルガリの大胆さと個性に改めて感じ入る。
「個々の宝石の価値より、芸術的な効果と最終的な色彩の調和(を重要視した)」という一文も、自分のインスピレーションとして刺さった。
既存の価値の概念から自由になることでの飛躍。その素晴らしさを、まさにブルガリのジュエリーが雄弁に語ってくれる。



「わたし時間」予約のススメ
現代は情報過多で、逆に脳の記憶力や判断力、理解力が低下しているともいわれるそう。
俯いた目が追う「それ」は自分の人生にほんとうに必要なことなのか、改めて問い直したい。
世界の広さを見渡すには、ゆったりした時間、億劫が必要なのだ。そこで初めて生まれる「もっと知りたい」といった、身体の内側から沸き起こるきらめきのような意欲も大切にしたい。
わたしの指輪も、大地の友達に再会したように、きらりと笑った、気がする。
くりかえすけれど予約制の美術展はよいのかもしれない。そういうところはデジタルの力をちゃっかり活用するのである。
人生の時間は自分だけの宝物。
「わたし時間」を、予約しよう。自分だけの、柔らかで広々した時間、心きらめく時間を。
https://www.nact.jp/exhibition_special/2025/bvlgari_kaleidos/
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マーケティングディレクター、ジュエリーに詳しいライター、女性メディアライター、ジュエリーデザイナーなどによる専門チーム。

 
                



